三十五歳、僕の頭頂部は、自分でも認めたくないほどに寂しい状態になっていた。毎朝、合わせ鏡でつむじ周りを確認し、どうにか髪の毛をかき集めて地肌を隠す作業から一日が始まる。雨の日や風の強い日は憂鬱で、人の視線が常に自分の頭に突き刺さっているような被害妄想に駆られていた。そんなある日、小学校の同窓会が開かれることになった。久しぶりに会う友人たち。彼らの目に、今の僕の頭はどう映るのだろう。想像しただけで、胃がキリキリと痛んだ。もう、ごまかすのは限界だ。僕の中で、何かがプツリと切れた音がした。その日の夜、僕はドラッグストアで一台のバリカンを購入した。風呂場の鏡の前に立ち、裸電球に照らされた自分の情けない姿を見つめる。心臓が早鐘のように鳴り、バリカンを握る手が汗で滑った。「本当にいいのか?坊主にしたって、どうせスカスカだぞ。もっとみじめになるだけじゃないのか?」心の中のもう一人の自分が、必死に引き止めようとする。僕は一度、目を閉じた。そして、ゆっくりと息を吐き、覚悟を決めた。ウィーン、という無機質な機械音と共に、長年僕のコンプレックスを覆い隠してきた髪の毛が、パラパラと洗面台に落ちていく。もはや後戻りはできない。僕は無心でバリカンを動かし続けた。全ての髪を刈り終え、恐る恐る目を開ける。そこにいたのは、想像通り、頭頂部がうっすらとスカスカな、見慣れない男だった。しかし、不思議なことに、絶望感はなかった。むしろ、何年間も肩にのしかかっていた重い鎧を脱ぎ捨てたような、途方もない解放感が僕を包んでいた。隠すものも、失うものも、もう何もない。鏡の中のスカスカ頭の男は、なぜか少しだけ、誇らしげに見えた。同窓会当日、僕は少しだけ胸を張って会場に入った。友人たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「潔いな!そっちの方がお前らしいよ」と笑ってくれた。他人の目という呪縛から解放された瞬間だった。僕が手に入れたのはフサフサの髪ではない。スカスカの自分を、ありのままに受け入れる強さだった。